令和8年
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イグノーベル賞「猫は液体か?」真面目な論文の衝撃

イグノーベル賞「猫は液体か?」真面目な論文の衝撃
「猫は固体であると同時に液体でもある」――。フランスの物理学者がこんな結論を導き出し、2017年のイグノーベル賞物理学賞を受賞しました。小さな箱や植木鉢にすっぽりと収まるあの姿を、流体力学の観点から大真面目に分析したのです。これは決して酔狂な与太話ではありません。世界には、一見すると「何やってんの?」とツッコミたくなるような研究に、人生を賭けて挑む知の探求者たちがいるのです。彼らに贈られる栄誉こそが「イグノーベル賞」。人類の愛すべき知的好奇心の暴走を、心ゆくまでご堪能ください。 ## なぜ「猫は液体」なのか?流体力学で証明 そもそもイグノーベル賞とは、「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究に対して贈られる、いわば「裏ノーベル賞」。1991年に創設され、毎年ハーバード大学で授賞式が行われる、由緒(?)ある賞なのです。 さて、冒頭の「猫は液体」説。提唱したのは、フランス国立科学研究センターのマルク=アントワーヌ・ファルダン氏です。彼は、猫がどんな形の容器にも自らの体をフィットさせる様子を見て、「これは液体の定義に当てはまるのではないか」と考えました。 彼の論文は、インターネット上に溢れる「#ifitfitsisits(もし入るなら座る)」というハッシュタグが付いた猫の写真から着想を得ています。そして、物質が固体か液体かを判断する物理学の指標「デボラ数」を用いて、猫の流動性を分析したのです。デボラ数とは、物質が変形するのにかかる時間と、我々がそれを観察する時間の比率のこと。ファルダン氏によれば、若い猫や活発な猫はリラックスするまでの時間が短いため、より液体に近いのだとか。逆に、年老いた猫は動きが鈍いため、固体に近い性質を持つ。一体どこまで本気なのでしょうか。その探究心、脱帽です。 この研究の結論は、もちろん「猫は液体である」と断定するものではなく、レオロジー(物質の流動と変形を扱う学問)の複雑な概念を、身近な猫という存在を通して分かりやすく説明する試みでもありました。笑いの中に、科学への深い洞察が隠されている。これぞイグノーベル賞の真骨頂です。 ## バナナの皮は本当に滑る?摩擦係数を測定した日本人研究者 実はこのイグノーベル賞、日本人は大の得意分野。2007年以降、毎年連続で受賞者を輩出しており、世界でも屈指の「イグノーベル大国」として知られています。 その中でも特に有名なのが、2014年に物理学賞を受賞した北里大学の馬渕清資教授らの研究でしょう。テーマは「床に置かれたバナナの皮を人間が踏んだときの摩擦の大きさを計測」。そう、漫画やコントでおなじみの、あの古典的なギャグを科学的に検証したのです。 実験では、実際にバナナの皮を床に置き、その上に載せたリノリウム(床材)をセンサー付きの台で踏みつけ、摩擦係数を測定しました。その結果、バナナの皮の内側にあるネバネバした袋状の組織が潰れることで潤滑液のような役割を果たし、摩擦係数が驚くほど低下することが判明。その値は、なんと通常の約6分の1。雪の上のスキーよりも滑りやすいという、衝撃の事実が明らかになりました。 「そんなこと調べて何になるの?」と思うなかれ。この研究は、人体の関節がなぜ滑らかに動くのか、そのメカニズムを解明する上で非常に重要な知見をもたらしたのです。関節内にある軟骨の潤滑作用と、バナナの皮の潤滑メカニズムには共通点があった。馬渕教授の研究は、より優れた人工関節の開発に応用される可能性を秘めているのです。笑いの先に、確かな社会貢献がありました。 ## ワニにヘリウムガスを吸わせると声は高くなるのか 日本人研究者の奇想天外な探求はとどまることを知りません。2020年には、京都大学の西村剛准教授らの国際研究チームが音響学賞を受賞。その研究内容がまた、私たちの想像力の斜め上を行きます。 「ワニにヘリウムガスを吸わせ、その声の変化を調べる」 人間がヘリウムガスを吸うと声が高くなる「ドナルドダック効果」はよく知られています。これは、空気より伝わる速度が速いヘリウムの中では、声道(声が響く空間)で共鳴する周波数が高くなるために起こる現象です。研究チームは、この現象が人間以外の動物、特に鳥類や爬虫類にも当てはまるのかを確かめようとしました。 しかし、相手はワニ。どうやって密閉空間に誘導し、おとなしくヘリウムガスを吸ってもらうというのでしょうか。研究チームは、気密性の高い水槽にメスのヨウスコウワニを入れ、ヘリウムと酸素を混ぜた特殊なガスを注入。ワニが鳴くのを根気強く待ち、その声を録音・分析したのです。その執念、もはや狂気の域。結果、ワニの声もヘリウム環境下では周波数が高くなることが確認され、哺乳類だけでなく爬虫類も、人間と同じように声道を共鳴させて音を生み出していることが証明されました。危険と隣り合わせの現場で、文字通り体を張って得られた貴重なデータです。 ## 次の「知的好奇心の暴走」はどこへ向かうのか これまで見てきたように、イグノーベル賞の研究は、単なる奇行やジョークの産物ではありません。猫の液体説、バナナの皮、ワニの美声。その全てが、一流の研究者たちが持つ純粋な「なぜ?」という好奇心から始まっています。 彼らは、誰も見向きもしなかった日常の片隅に科学の種を見つけ、常識という名の壁を笑い飛ばしながら、新たな知識の扉を開いてきました。一見すると無駄で、馬鹿げているように見えるかもしれません。しかし、こうした「知の遊び」こそが、凝り固まった私たちの思考をほぐし、科学をより身近で楽しいものへと変えてくれるのです。 現代は、AIが論文を書き、あらゆる情報が瞬時に手に入る時代。効率や実用性ばかりが重視されがちです。しかし、そんな時代だからこそ、イグノーベル賞が示す「一見、無駄に見える探求」の価値は、より一層輝きを増すのではないでしょうか。次に世界を笑わせ、そしてハッとさせるような知的好奇心の暴走は、一体どこから生まれてくるのか。楽しみに待つのもまた一興です。

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よくある質問

イグノーベル賞とは何ですか?
「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究に贈られる、ノーベル賞のパロディー的な科学賞です。ハーバード大学で授賞式が行われ、本物のノーベル賞受賞者も参加するなど、権威とユーモアを兼ね備えています。
イグノーベル賞を受賞すると賞金はもらえますか?
賞金はほとんど出ません。かつては10兆ジンバブエドル(当時ほぼ無価値)が贈られたこともありましたが、基本的には名誉とトロフィー、そして世界中からの注目が賞品となります。
日本人はイグノーベル賞をよく受賞するのですか?
はい、日本人はイグノーベル賞の常連です。2007年から2023年まで17年連続で受賞しており、そのユニークな発想と研究への真摯な姿勢が世界的に評価されています。

出典

イグノーベル賞珍研究科学動物