猫は液体か?イグノーベル賞に輝いた奇妙な研究たち
猫は、固体であると同時に液体でもある。2017年のイグノーベル賞物理学賞を受賞したマルク=アントワーヌ・ファルダン氏の研究は、そんな衝撃的な結論を導き出しました。彼は流体力学の観点から「猫は狭い容器に合わせて体の形を変えられるため、液体の定義を満たす」と主張。インターネットの愛すべき猫画像から、科学的な真理(?)を導き出してしまったのです。もちろん、世界中の猫好きは「知ってた」と頷いたに違いありません。
この記事では、そんな「人類のバカを愛でる」精神にあふれたイグノーベル賞の世界にご案内します。大真面目な研究者たちが挑んだ、奇妙で、おかしくて、なぜか少し考えさせられる研究の数々。あなたの常識が、心地よく揺さぶられる時間のはじまりです。
## 「人々を笑わせ、そして考えさせる」賞の正体
そもそもイグノーベル賞とは何なのでしょうか。これは、科学雑誌『Annals of Improbable Research(ありそうにない研究年報)』が主催し、「人々を笑わせ、そして考えさせる」ようなユニークな研究に贈られる賞です。名前は「Ignoble(不名誉な)」と「Nobel Prize(ノーベル賞)」をかけた洒落ですが、決して研究を嘲笑するものではありません。
授賞式は毎年秋、なんとあのハーバード大学で開催されます。さらに驚くべきことに、プレゼンターを務めるのは本物のノーベル賞受賞者たち。受賞者にはトロフィー(毎年デザインが変わる手作りの珍品)と、ジンバブエの10兆ドル札(ほぼ無価値)が授与されるという徹底ぶり。このユーモアの裏には、科学への興味の入り口を広げたいという創設者たちの熱い思いが込められているのです。
## 動物たちの(たぶん)迷惑な大貢献
イグノーベル賞の宝庫といえば、やはり動物が絡む研究です。人間の好奇心のために、多くの動物たちが一肌脱いできました。
1995年、日本の慶應義塾大学の研究者、渡辺茂氏らはハトにピカソとモネの絵を区別させる訓練を行い、見事に成功させました。これにより、ハトが非常に高い視覚的識別能力を持つことが証明されたのです。ハトに芸術がわかるとは。公園でパンくずをねだる彼らの目には、世界はどんな風に映っているのでしょうか。
さらにぶっ飛んだ研究もあります。2020年の音響学賞は、「ワニにヘリウムガスを吸わせると声が変わるか」を検証した日米欧の共同チームに贈られました。一体なぜそんなことを?と思いますが、研究者たちは大真面目。ワニの鳴き声の仕組みを解明することが、絶滅した恐竜の発声メカニズムを探る手がかりになると考えたのです。ちなみに結果は、ワニの声もちゃんと高くなったそうです。壮大なロマンと、ちょっと間抜けな光景のギャップがたまりません。
## 人間という不可解な生き物への探求
イグノーベル賞は、我々人間自身の奇妙な生態にも光を当てます。「なぜ老人の耳は大きいのか?」。誰もが一度は抱いたかもしれないこの素朴な疑問に、真剣に取り組んだのがイギリスのジェームズ・ヒースコート医師です。彼は200人以上の患者の耳の長さを測定し、「耳は30歳を過ぎると10年で約2mmずつ成長し続ける」という事実を突き止め、2017年の解剖学賞を受賞しました。もはや哲学の領域です。
日常のあるあるネタも、科学者の手にかかれば立派な研究テーマ。歩きながらコーヒーをこぼしてしまう現象を数式で分析し、どうすればこぼさずに済むかを解明した韓国の研究者は、2017年の流体力学賞に輝きました。彼の結論は「後ろ向きに歩く」か「ワイングラスのように上からつまむように持つ」こと。明日から早速、オフィスで試す勇気のある猛者はいるでしょうか。
## 誇り高き日本の「変な研究」たち
実は日本は、アメリカに次ぐイグノーベル賞受賞大国。そのユニークな発想力は世界から高く評価されています。
2004年の平和賞を受賞したのは、カラオケの発明者である井上大佑氏。授賞理由は「人々に互いに寛容になるための全く新しい方法を提供した」という、なんとも粋なものでした。確かに、多少音痴な同僚の歌にも手拍子を送る我々は、カラオケによって寛容さを学んでいるのかもしれません。
科学的な貢献度が非常に高い研究もあります。2008年に認知科学賞を受賞した中垣俊之氏らのチームは、粘菌という単細胞生物が迷路の最短経路を見つけ出す能力を持つことを発見しました。この研究は、効率的な輸送ネットワークの設計などに応用され、実際に首都圏の鉄道網のモデルと比較されたことでも知られています。地味な粘菌が、私たちの生活を支えるインフラ設計にヒントを与えていた。そう考えると、なんだか胸が熱くなります。
## 笑いの先に待つ「思考」の扉
イグノーベル賞の研究は、一見するとバカバカしいものばかりに思えるかもしれません。しかし、その一つ一つが、研究者の純粋な好奇心と探求心の結晶です。「なぜだろう?」という素朴な疑問から出発し、常識を疑い、誰も見向きもしなかった領域に踏み込んでいく。それこそが、科学の原点ではないでしょうか。
猫は液体なのかもしれないし、ハトは芸術を理解するのかもしれない。ワニの声を聞けば、恐竜の謎が解けるかもしれない。イグノーベル賞は、そんな「かもしれない」という想像力の翼を私たちに与えてくれます。
次にあなたが何か奇妙な疑問を抱いたとき、それを笑い飛ばさずに少しだけ考えてみてください。その問いの先には、まだ誰も知らない面白い世界が広がっている。あなたも、未来のイグノーベル賞受賞候補者なのです。
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よくある質問
- イグノーベル賞は、本物のノーベル賞と何か関係があるのですか?
- 直接的な関係はありませんが、洒落を込めてノーベル賞を模倣しています。授賞式には本物のノーベル賞受賞者がプレゼンターとして参加するなど、ユーモアあふれる形でリスペクトを示しています。
- 日本人もイグノーベル賞を受賞していますか?
- はい、日本はアメリカに次ぐ受賞大国です。カラオケの発明や、粘菌による迷路探索の研究、タマネギで涙が出る仕組みの解明など、数多くの日本人が受賞しています。
- イグノーベル賞の研究は、本当に社会の役に立っているのですか?
- 一見役に立たないように見えても、後から重要な発見につながるケースがあります。例えば粘菌の研究は効率的な輸送網設計に応用されました。また、科学への興味の入り口として、教育的な価値も大きいと言われています。