窓税・ひげ税・独身税?実在した世界の珍税史

1696年、イングランドの住宅街から窓が次々と姿を消しました。原因は幽霊屋敷の流行でも建築様式の変化でもなく、税金です。国王ウィリアム3世が導入した「窓税」は、家にある窓の数に応じて税額が決まる制度でした。これに対する住民の対抗策は驚くほど潔いもの。窓をレンガで塞いだのです。光を捨ててでも税金は払わない――そんな人類の意地と工夫の歴史は、窓税だけにとどまりません。ひげに課税したロシア、独身に課税したイタリア、消滅した海軍のための税金を今も徴収し続けるドイツ。世界の税制史は、真面目な顔をした珍事件の宝庫なのです。
窓の数で税額が決まる「窓税」、対抗策はレンガで塞ぐこと
当時のイングランドには所得税がなく、収入を役所に申告させるなど「プライバシーの侵害」だと考えられていました。そこで政府が目をつけたのが窓です。窓が多い家は豊かな家。しかも通りから数えられるので、申告も査察も不要という画期的な仕組みでした。当初は窓が10枚以上ある住宅が課税対象とされ、窓が増えるほど税額も上がります。
結果はご想像のとおり。人々は次々と窓をレンガや板で塞ぎ、新築の家は最初から窓を減らして設計されるようになりました。バースやロンドンの古い街並みでは、塞がれた窓の跡が残る建物を今も見ることができます。税金を取られるくらいなら日光を諦める、この判断の潔さよ。
しかし締め切った暗い部屋は換気が悪く、健康被害の温床になりました。医師たちは「病気のもとだ」と廃止運動を展開し、1851年、導入から156年目にしてようやく廃止。英語の「daylight robbery(白昼堂々の強盗=法外な料金)」という表現の語源はこの窓税だという説もあります(諸説あり)。ちなみにフランスも1798年に窓とドアへの課税を導入し、こちらは1926年まで128年間続きました。隣国の失敗を見ていたはずなのに。人類、意外と学びません。
ひげを生やすなら金を払え ― ピョートル大帝の「ひげ税」
1698年、ロシアのピョートル大帝は西欧視察から帰国するなり、出迎えた貴族たちのひげをその場でハサミで切り落としました。西欧ではひげを剃るのが主流。ロシアを近代化したい大帝にとって、立派なひげは「遅れた古い慣習」の象徴だったのです。そして導入されたのが、ひげを維持したい者に課す「ひげ税」でした。
納税者には「金は納めた」と刻印された銅製トークン、通称「ひげ銅貨」が発行され、これを携帯していれば堂々とひげを生やせました。ひげの通行手形です。税額は身分に応じて設定され、富裕な商人には年100ルーブルという高額が課されました。農民は町の門で少額を払えば出入りできたとされます。
当時のロシア正教会ではひげを剃ることは罪と考えられていたため、信仰のために納税してでもひげを守る人が続出しました。信仰と国家財政が真っ向からぶつかり、痛むのはいつも庶民の財布という構図です。この制度、1772年に廃止されるまで70年以上も続きました。
独身でいるだけで課税される ― 古代ローマからソ連まで
独身への課税は、実は2000年の歴史を持つ由緒正しい珍税です。古代ローマのアウグストゥス帝は紀元9年、未婚者の相続権を制限する法律を定めました。直接の税金ではないものの、事実上の独身ペナルティ。上流階級の少子化に頭を抱えた皇帝の苦肉の策でした。
時代は下って1927年、ムッソリーニ政権下のイタリアは25歳から65歳までの独身男性に独身税を課しました。人口増加政策の一環で、税収は母子保護事業に充てられています。ソ連も負けていません。1941年に導入された「無子税」は、子どものいない成人から所得の6%を徴収するもので、なんとソ連崩壊直前の1992年まで半世紀にわたって存続しました。「結婚しないなら払え」という制度からは、時の国家の焦りがくっきり透けて見えます。
海軍は消えたのに税金だけが残った ― 現代に生きる珍税
珍税は歴史の遺物ではありません。ドイツには「泡ワイン税」という税金が現存します。始まりは1902年。皇帝ヴィルヘルム2世が艦隊建設の資金源として、シャンパンなどの発泡ワインに課税したのが起源です。第一次世界大戦で帝国海軍は消滅しましたが、税金のほうは今日もしぶとく生きており、ボトル1本につき約1ユーロが上乗せされています。目的を失ってから100年生き続ける税金の生命力、恐るべし。
デンマークは2011年、飽和脂肪酸を多く含む食品に課税する「脂肪税」を世界で初めて導入しました。バターもチーズも値上がりし、国民は国境を越えてドイツへ買い出しに走り、国内の小売業者は悲鳴を上げます。結局わずか1年余りで廃止されました。ハンガリーが2011年に導入したスナック菓子などへの課税、通称「ポテトチップス税」は現役です。
日本にも珍税の歴史はあります。1982年まで一部の自治体には「犬税」が存在しました。大阪府泉佐野市は2012年にフンの清掃費用を賄うため犬税の復活を検討しましたが、徴税コストが税収を上回る見込みとなり断念。犬に負けた税務行政として静かに語り継がれています。
珍税は時代を映す鏡 ― 次に笑われるのはどの税金か
笑ってしまう珍税も、当時なりの合理性がありました。所得を把握する仕組みがない時代、通りから数えられる窓は最先端の「資産の見える化」だったのです。ひげ税は西欧化という国家戦略の道具であり、独身税は人口政策の現れでした。つまり珍税とは、その時代の政府が「何を測ることができて、何を変えたかったか」の記録にほかなりません。
現代の世界では砂糖入り飲料への課税やデジタル課税の議論が進んでいます。100年後の人類が「21世紀は炭酸飲料に税金をかけていたらしい」と笑っている可能性は十分にあります。窓を塞いだ英国人を笑えるのは、今のうちかもしれません。
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よくある質問
- 窓税とは何ですか?
- 1696年にイングランドで導入された、住宅の窓の数に応じて課税される税金です。住民が窓を塞いで対抗したことで知られ、健康被害への批判を受けて1851年に廃止されました。
- ひげ税は本当に実在したのですか?
- 実在しました。ロシアのピョートル大帝が1698年、西欧化政策の一環として導入したものです。納税者には「ひげ銅貨」と呼ばれる銅製トークンが発行され、制度は1772年まで続きました。
- 現代にも変わった税金はありますか?
- あります。ドイツでは1902年に海軍の資金源として導入された泡ワイン税が今も存続しています。デンマークの脂肪税(2011〜2012年)やハンガリーのポテトチップス税など、健康目的の珍税も登場しています。