叫んでも無音──フィンランドのマスク、日本注文35%
フィンランドのスタートアップが開発した「無音マスク」が、クラウドファンディングで目標額の2000%を達成した。装着したまま全力で叫んでも外部にはほぼ無音。さらにBluetoothで叫んだ自分の声をヘッドフォンで聴き返せるという、何がしたいのか一周してよくわからない機能まで搭載されている。
## 99%吸音、残り1%はどこへ行く
マスク内部の特殊吸音材が声のエネルギーを99%以上吸収する仕組みだ。叫ぶという行為は声帯を震わせ、胸郭を揺らし、表情筋を総動員する全身運動でもある。その出口だけを塞いでも、体の中に閉じ込められたエネルギーはちゃんと発散されるのか──そういう疑問が生まれるのは正常な反応だ。
開発元によると、声を外に出す物理的なリリースがなくても「叫ぶ動作そのもの」にストレス発散の効果があるとされる。実際、叫びながら顔を歪め、肺から息を押し出す行為は、それだけで自律神経に働きかける。99%吸音で十分、残り1%は御愛嬌ということにしておこう。
## 満員電車と上司の説教
クラウドファンディングのコメント欄が興味深い。「満員電車で使いたい」「上司の説教の後に使いたい」──そんな投稿が相次いだのは日本からで、注文全体の35%を日本人が占めた。フィンランドと日本という、地球のほぼ裏表にある2カ国が揃ってこのデバイスに熱視線を注いでいる構図は、何かを物語っている。
フィンランドは国連の幸福度ランキングで連続首位を誇る国だ。そんな国のスタートアップが「叫ぶためのマスク」を開発したという事実は、幸福な社会にも叫びたい瞬間は等しく訪れると教えてくれる。人類共通の叫びたい衝動を静かに受け止める器がフィンランド発で生まれたのは、ある意味で必然だった。
## 目標額2000%達成の重み
クラウドファンディングで目標額の2000%を達成するというのは、集まるはずだった金額の20倍が集まったということだ。一般的なクラウドファンディングの成功プロジェクトは目標の110〜120%程度の達成が平均とされる。2000%はその約15〜18倍の過達成であり、「需要の把握」というより「潜在需要の発掘」に近い。
誰も「欲しい」と言い出せなかっただけで、ずっと欲しかった。そういう製品が世の中にはある。防音スクリームマスクは、その典型だった。
## 叫びを「聴き返す」という謎機能
Bluetooth接続で、自分が叫んだ声をヘッドフォンでリアルタイムに聴き返せる──この機能の説明を読んで、一瞬止まった人は多いはずだ。叫ぶだけじゃだめなのか、と。
これには「外部化」という心理的なメカニズムが関係している。自分の感情を自分の耳で聴くことで、その感情を「自分の内部」ではなく「外の情報」として処理できるようになるとされる。泣きながら日記を書くのと近い原理だ。叫んで、聴いて、「ああ、私はこんなに追い詰められていたのか」と他人事のように受け取る。それがこの機能の狙いらしい。
やっていることは日記の叫び版。フィンランド人、意外とロマンチストだった。
## 世界の「叫び文化」と日本の沈黙
世界に目を向けると、叫びをセラピーに活用する動きは各地にある。アメリカでは「レイジルーム(怒りの部屋)」という壊したい物を室内で壊すストレス発散サービスが普及し、叫ぶことを組み合わせた施設も存在する。日本でもカラオケの個室が事実上のスクリームボックスとして機能しており、カラオケ大国の側面を支えている。
ところが日本の公共空間における「声のルール」は世界有数に厳しい。電車内通話禁止はもちろん、駅のホームで大声を出すことも強烈な視線を招く。この抑圧と欲求のギャップが、注文の35%という数字として表れた──と解釈すると、なかなか切ない話でもある。
防音マスクはその隙間を埋めるデバイスとして、日本に静かに降り立った。静かに、というのはもちろん比喩だ。なにしろ中では全力で叫んでいる。
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よくある質問
- フィンランドで話題になった「口を閉じるマスク」とは何ですか?
- 睡眠時の口呼吸を防いで鼻呼吸に切り替えさせることを目的としたシリコン製の装具です。口元に密着させて装着し、口が開きにくくなる仕組みです。いびきや口腔乾燥の対策として注目されました。
- 口呼吸を続けると何が問題なのですか?
- 鼻には空気のフィルタリング・加湿・加温機能があるため、口呼吸ではそれらが失われます。歯や喉の乾燥、感染リスクの上昇のほか、睡眠の質の低下やいびきの原因にもなると指摘されています。
出典
- Yle: 無音マスクの開発